を止めないと現状は改善しないことから、各大学の教授をはじめとした指導層は、大変な労力を要するが、地道に研究者を育て、学位指導できる者を増やす必要がある。そして指導者は、若い麻酔科医が研究に興味を持てるように、何故研究が必要であるかを説き、人間が本来持っている知識欲を刺激して研究に誘う努力をしなければならない。麻酔科医は、刻一刻と変化する生体状況を理解し対応するために、経験だけでなく多くの知識を得て、それらを用いて考察する力が必要がある。考察力は、研究や論文執筆によって磨かれて行く能力である。また、掲載されている論文の統計処理や数値の解釈は、必ずしも正しくないことがあり、それを見抜く力も、自ら研究をして、論文を書くことでのみ得られる。患者を救うためには、研究をして、新しい治療法、診断法の開発が不可欠である。(3)大学院での指導法の改善 大学院に入学させた後は、指導医は根気強く院生を指導し、信頼関係の構築にも努める。指導医は、研究の進捗状況を見ながら、適切なアドバイスを行ない、院生が精神的に追い込まれないように配慮し、常に前向きな精神状態を維持させる。一方、院生は、研究が軌道に乗ったら、自分で計画を立て自分のペースで研究を遂行するようにする。そして院生は、得た知識、技術を使って、研究の更なる発展を目指す。(4)ダイバーシティー(男女共同参画)の推進 現在日本では、女性医師数の割合が年々増加し、特に麻酔科領域では顕著である。結婚している女性医師は、家事・子育て等の診療以外の仕事量が多く、研究に時間を割くことがあまり出来ない。しかし、子育て中の女性麻酔科医(ママさん麻酔科医)が専門医を取得し維持するために必要な仕事量は、かなりの労働量である。このため、ママさん麻酔科医の協力の下、研究体制の再興を目指すべきである。具体的には、ママさん麻酔科医の働く日勤帯に、研究希望者は研究を行う。夕方、帰宅するママさん麻酔科医の麻酔業務を引き継ぐようにすれば、十分な研究時間を確保できる。そして業務引継ぎ時に、研究していた麻酔科医はママさん麻酔科医に研究が出来たことへの感謝、一方ママさん麻酔科医は自分の仕事を引継いでくれたことへの感謝を互いにする。ママさん麻酔科医が、研究協力への満足を感じれば、さらに良い方向に向かうはずである。ママさん麻酔科医も子育ての程度に合わせて、休日の日中の当番から始め、徐々に夜当番、更に落ち着いたならば集中治療部の当直なども行えるはずである。少なくとも当講座では、女性麻酔科医同士で話し合い、このような運用が出来ている。講座への帰属意識と愛情から、講座のために何ができるかを考えるようになれば、自ずと可能になる。また、男女共同参画をさらに進めるためには、男性医師の育児分担等の協力が進むことが、ママさん麻酔科医のキャリア形成上不可欠である。(5)英文論文執筆の環境作り 若手医師が英文原著論文をいきなり書くことは難しい。まずは和文症例報告、続いて和文原著論文、そして英文症例報告を書き、その後に英文原著論文の執筆へと進むような段階を踏んだ指導が必要である。症例報告や臨床研究の英文論文の投稿先として、最初は、採択率の比較的高いJSA機関誌のJA Clin Reportsをお勧めする。研究力が向上したら、同じくJSA機関誌のJ Anesth (JA) へ投稿し、更に質の高い研究成果が生まれればQ1カテゴリー (Impact Factor順に雑誌を並べた場合の上位1/4) の医学誌へ投稿する。(6)倫理面での教育 倫理教育は必須である。詳細は次の章「論文不正と対策」で述べる。(7)臨床研究の推進 多くの医育機関では、診療業務の急増で、基礎研究を行う時間の確保が難しい。その点、臨床研究は、日頃の臨床業務をしながら行うことが出来、難しい技術も不要なことが多い。また94
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