日本麻酔科学会 70周年記念誌
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倍増かそれ以上になっている。さらに、麻酔科に加えて精神科、放射線科の医師数が1.7以上に増加している一方、時間外勤務時間が多い医師の割合が少ないことから(図1)、外科や産婦人科などの医師数を増加させるために麻酔科や精神科などの医師数を減少させる方策が生み出されたものと推測される。 このような医師の働き方改革の法制化をにらんだ政策と合わせて、医師の診療科偏在、地域偏在の是正を図るべく、2018年秋に医療法、医師法の一部改正が行われ、2019年4月から施行された。改正の要点を見ると、医師養成課程を通じた医師確保対策の充実という項目があり、医師確保計画との整合性確保の観点から医師養成課程を次のように見直し医師確保対策を充実させることが記載されている。具体的には、都道府県の意見を聞いた上で、国から日本専門医機構等に対し、地域医療の観点から必要な措置の実施を意見する仕組みが創設された。すなわち、都道府県知事からの要請や国の政策として地域医療における医師確保、診療科偏在の是正を目的として、日本専門医機構に必要な措置を行うことが法によって規定され可能になったのである。なお、日本専門医機構等の“等”が意味するのは各基本領域学会である。4月から改正医療法、医師法が施行されることを受けて、2月に最初に述べた将来の必要養成医師数が計算され提出されることになったのである。 日本専門医機構が2014年に設立された時の基本像は、学会ではなく第三者機関として制度の統一化・標準化を図ることと、プロフェッショナルオートノミーを基本とすることであった。その結果、国民から信頼される専門的医療に熟達した医師を育成し、日本の医療の向上に貢献するという基本理念が達成されるわけであるが、現在は専門医の質の担保とともに、地域医療体制の維持と診療科偏在を悪化させない仕組みの構築のための制度設計に主眼が置かれているように思われる。地域医療体制の維持という名目によって医師少数県、具体的には足下充足率0.8図1.勤務時間と診療科偏在の関係週当たり勤務時間が60時間以上の病院勤務医師の診療科別割合98

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