日本麻酔科学会 70周年記念誌
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中治療科が新設され、これまで麻酔科として届けていた一部の麻酔科医が麻酔科ではなく集中治療科として申告したことも一因と考えられる。しかし、2024年現在、麻酔科に対するシーリングは継続されている。したがって、シーリングがかかっている地域ではシーリング割れしないよう努力することは当然であるが、非シーリング地域における専攻医数を増加させることとともに、シーリング地域と非シーリング地域の連携プログラムを強化推進することが求められる。実際、2019年度から2024年度までの専攻医採用数を見ると、455~494人[3]とほぼ横ばいの状態であり大きく減少していないことから、連携プログラムなどの対策が奏効しているものと思われる。なお、2019年当時シーリングが設定されていた神奈川県や愛知県は足下充足率が1を下回ったことから直近の2024年にはシーリング対象から外れている。東京、大阪、福岡については、2019年のシーリング数はそれぞれ111、55、34であったが、2024年には101、38、28と、さらに厳しくなっているのが現状である。 直近20年間で麻酔科医は1.96倍に増加していることは先に述べたが、全身麻酔件数はどのような変化をたどってきたのであろうか。厚生労働省の医療施設静態調査などを見ると、平成5年度に比して平成26年度は約2倍に増加しているが、全身麻酔実施施設数は約3分の2に減少している。もし、麻酔科医が約2倍に増加していなかったら日本の麻酔医療は崩壊していた可能性があり、麻酔科医をリクルートしてきた先人の努力に敬意を表したい。このように麻酔科医が増加してきた結果、2024年現在、学会会員数は14,000人を超えるところまで来ているが、手術件数の増加に見合う麻酔科医の増加はほとんどの施設において達成できていないのが現状と思われる。その結果、大学病院勤務でバーンアウトした中堅麻酔科医が大学病院を退職する事態が続出している。そして、退職した麻酔科医の中からフリーランス麻酔科医になる者が出てきた。その背景には人材派遣業者の台頭があり、バーンアウトした麻酔科医が容易に人材派遣業者にアクセスできる環境が後押ししている。麻酔科医の勤務時間を見ると、週当たりの勤務時間が60-100時間(超過勤務20-60時間)である常勤麻酔科医の割合は34%であることは前述したが、週当たりの勤務時間が40-50時間(超過勤務0-10時間)である常勤麻酔科医の割合は31%であり、働き方に二峰性のピークを示していることがわかる。麻酔科医の総数は年々増加しているが、特に夜間や休日の緊急手術に対応可能な一部の麻酔科医に負荷がかかっている状況を是正しなければ、解決は図られないと思われる。 フリーランス麻酔科医の中には病院に対して理不尽な勤務条件を提示し、病院や外科系医師から反感を買うケースも出てきた。2018年、当時の稲田英一理事長は国会議員からフリーランス麻酔科医に対して痛烈な批判を受けた。さらには日本外科学会幹部から麻酔科医師の勤務態度等に対して日本麻酔科学会が真摯に指導することを求められた。これらの要望等を受けて、日本麻酔科学会では専門医更新要件である週3日勤務を厳格化し単一施設における週3日勤務に変更した。 日本の人口は2008年の1億2,808万人をピークに既に減少局面に入っている。一方、65歳以上の高齢者数は、2025年には3,657万人となり、2042年にはピークを迎える(3,878万人)ことが予測されている。現在はほぼ右肩上がりに手術件数が増加しているが、2030~2040年くらいには減少局面に入ることが推定されている。2019年に会員に対して行ったアンケートを見ると、手術室で手術麻酔業務に従事している麻酔科医は69.7%であった。このほか、集中治療や3.フリーランス麻酔科医4.麻酔科医の将来像100

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