研究力の低下の原因については、多方面から分析されている。臨床医学部の研究力の低下については、初期臨床研修制度の導入、国立大学法人化、および価値観の変化が指摘されている。初期臨床研修制度の導入と国立大学法人化は、2004年に開始されており、麻酔科学領域の代表的な三誌への掲載数が減少し始めた時期と一致している。初期臨床研修制度の導入による大学で臨床研修を行う医師数の減少したこと、また、国立大学法人化に伴う運営費交付金の削減により大学病院での増収が求められたことから、結果として医師の臨床業務へのエフォートが増加し、研究へのウエイトが低下したと考えられる。医学・歯学臨床系教員の研究活動のエフォートは、2002年には28.8%であったものが、2013年には17.7%まで低下している[5]。2023年の調査では、助教の1週間の研究時間が6.5時間と報告されている[6]。麻酔科医も同様の状況にあると推測される。 さらに、2024年度から開始される「医師の働き方改革」により、研究時間の確保が一層困難になることが予想される。また、キャリアが多様化し、研究活動や学位取得を望まない医師も増加している。日本麻酔科医会連合学術推進プロジェクト会議の調査によれば、医育機関において麻酔科医の学位取得希望者は20~30%程度であるのに対し、他の医学分野では50%程度であり、麻酔科医の学位取得希望者が低いことが明らかになっている[1]。 また、麻酔科領域の特有な要因として、がん・神経変性疾患・自己免疫疾患領域と比較して新薬や新たな機器の導入が少なく、研究テーマの裾野が広がらないことが挙げられる。これにより、研究の魅力が乏しく、結果として論文数の低下につながっている可能性がある。 日本麻酔科学会は、理念である「患者の命を守り、安全で快適な医療を提供する」ために、先端的な研究の推進と新たな医療技術の創生に邁進しなければならない。この実現には医育機関の役割が非常に大きい。前述の研究力低下の一般的要因を述べたが、職場環境の改善による研究時間の捻出、教室員の研究モチベーションの向上、研究費の獲得など、具体的に取り組むべき課題は各医育機関で様々であると思われる。今こそ、教授のリーダーシップが求められる時である。その上で、日本麻酔科学会は学術委員会を中心に、麻酔科医の研究のサポートと研究推進の雰囲気作りに努めなければならない。まずは、現状調査を行い、麻酔科独自の問題点を洗い出すことが必要である。さらに、研究活性化事業として、個別研究の支援体制作りと、麻酔科領域で遅れている国内多施設共同研究の実施組織作りを検討する必要がある。また、雰囲気作りとして、年次学術集会で研究モチベーションを向上させるプログラムを企画することも重要である。そして、研究力および研究活性化の評価項目を定め、定期的に評価し、対策を講じることが求められる。 この難局を乗り越えるためには、日本麻酔科学会70年の歴史を築き上げてきた諸先輩方の協力が必要であり、また、各施設と日本麻酔科学会との緊密な協力が不可欠である。難局を乗り越え、日本の麻酔科学と日本麻酔科学会が新たな飛躍を遂げることを期待する。70周年記念シンポジウム 記念講演会収載3.研究力低下の要因4.我々ができること11
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