日本麻酔科学会 70周年記念誌
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き教育、研究に費やす時間は無視され、手術室で麻酔件数をこなすことが最大の任務になりました。 1954年に日本麻酔科学会が設立され、今年で70周年を迎えました。私自身は、1974年に医学部を卒業し、同時に麻酔科に入局、70年におよぶ麻酔科学会の歴史の2/3余りに身を置き、2009年から4年間は、理事長として麻酔科学会の公益法人化などに責任もある立場で活動をしてまいりました。 70年にわたる麻酔科学会の歴史の中、先人の大変な苦労と努力をもって、日本における基幹診療科の学会の中でも常に先進的な活動を進めてきました。標榜医制度の獲得や、1961年には他の学会に先駆けて専門医制度、麻酔科指導医制度を開始するなど、麻酔科学会は権威ある学術団体としての社会的地位確立に常に努力してまいりました。わずか数十人で設立された麻酔科学会も、会員数は増加を続け、約50年を経た2001年には8,000人を超える学術団体となり、法人法に基づく“構成員の共通の利益を図るべく権利と義務を持つ団体”として認可を受け、公益性を持った社団法人となりました。 21世紀を迎えた日本は、政治的にも経済的にも非常に厳しい時代でした。政権交代で政治は混乱し、何も決めることができない政治、1990年以来、失われた10年、20年ともいわれた日本経済の失速で、全てに苦しい時代でもありました。そのような中、2004年には、明治以来の大改革といわれた、国立大学法人化と新臨床研修制度が同時に行われ、その結果、先進医療の維持、均霑化、また医師のキャリア教育と配置に責任を持ってきた大学医局制度が崩壊し、麻酔科学会も大きな影響を受けることとなりました。 国立大学の法人化は、特定機能病院たる大学病院に独立採算制を求め、病院経営は、手術件数に大きく依存するため、麻酔科医にとっては大きな環境変化となりました。大学人が本来、果たすべ大学病院だけでなく一般病院においても麻酔科医の重要性は高まりましたが、それは医師として、教育者として、研究者としての価値ではなく、麻酔技術者としての価値が高まったにすぎませんでした。大学から求められたこの要求に対応出来なかった何人もの麻酔科教授がこの時期、退陣に追川崎医科大学総合医療センター特任教授岡山大学名誉教授記念シンポジウム70周年記念シンポジウム 記念講演会収載70周年記念シンポジウム 記念講演会収載第1部 ・日本麻酔科学会の設立から法人化 (1954-2001年)・国立大学法人化と新臨床研修制度 (2001-2004年)23森 田   潔日本麻酔科医会連合の設立

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