日本麻酔科学会 70周年記念誌
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学会資料)であり、本来麻酔科医が行うべき手術室麻酔でさえ、全てをカバーしているとは言えず、手術室外の麻酔医療に至っては、無痛分娩などを麻酔科医が提供するには程遠い状況と言えます。 大学の医局崩壊に伴うアカデミズムの低下は、診療科としての存在すら脅かす大きな問題でもあります。大学院に進学して博士号を取得する麻酔科医の数、発表される論文数、学術集会の演題数は、新臨床研修制度開始以後、学会会員数は増加しているにも関わらず半減しています。多くの若い医師にとって、僅か4年の麻酔科専従で取得できる専門医がキャリア最終の目標となり、優れた臨床医として必要な研究心や博士号などのアカデミア、海外留学などキャリアアップを求めない現状は愁える問題です。現在の麻酔科専門医制度は、麻酔科医としての医療レベルを保障しているのではなく、単に麻酔科専従を表しているにすぎません。 また、大学の医局や常勤医を避けてのフリーランス麻酔科医の増加は、その診療形態が問題ではなく、常識を超えた麻酔報酬の要求に対して、社会からモラルの低下を指摘され、政治、行政にまで影響する事態に至っています。日本の医療は、国民皆保険の診療報酬制度で成り立っており、麻酔科医の独立請求権は無く、自由診療の混合診療も認められておらず、市場原理では動いていません。 日本麻酔科学会は14,000人の会員数を誇る、日本の基幹診療科の中でも有数の学会に成長し、公益法人化も果たし、社会的にも権威ある学術団体として認められるまでに成長しました。一方、麻酔科医をめぐる社会環境は大変厳しく、公益法人たる学術団体としては対処しきれない状況も多く存在するようにもなりました。 2020年6月、時の日本麻酔科学会理事長から歴代の理事長経験者に対して、純粋に麻酔科医の社会的利益を護る活動がおこなえる団体を設立したいという提案が行われました。歴代の理事長経験者が協議を行い、6名の内5名が発起人となり日本麻酔科医会連合の設立を提案し、日本麻酔科学会理事会と共に設立準備会議を重ねて、2021年1月6日、設立社員総会を開催、4月1日付で法人登記を完了して、一般社団法人日本麻酔科医会連合が発足しました。 日本麻酔科医会連合は、その名の通り麻酔科医個人が社員(会員)ではなく、日本麻酔科学会を主体とする麻酔科関連5学会、また麻酔科学会支部を構成する7地域麻酔科医会が社員となって連合組織として発足しました。定款で議決権の3分の1を日本麻酔科学会が保有する麻酔科学会のSub組織とも言えます。日本麻酔科学会の理念を共有し、公益法人が故に制約を受ける活動を補完し、麻酔科医の社会的利益の確保を事業目的とした法人組織であり、その一環として、議員連盟「日本の安全な麻酔と周術期医療を考える会」を設立して国会議員との勉強会、麻酔科医の社会的な問題を議論する「学術・政策勉強会」を年4回、行政と定期的に開始しました。麻酔科医の利益の上に立った麻酔科医の為の自由な組織として、自らを律し、安全、安心な麻酔医療を全ての日本国民に提供できる社会環境づくりを目指した活動を進めています。 麻酔科医を取り巻く社会環境は常に時代とともに大きく変化しています。しかし学会設立以後、70年間一貫して麻酔科医不足の問題は、解決していません。現在の麻酔科のとりまく多くの社会的問題は、結局この麻酔科医不足が基にあります。麻酔科学会会員が増えても、未だに日本において麻酔科医が担うべき全ての麻酔医療を提供できていない現状を麻酔科学会は正しく認識し、日本の70周年記念シンポジウム 記念講演会収載・一般社団法人日本麻酔科医会連合の設立 (2021年)・日本麻酔科学会設立100周年に向けての提案 (2024-2054年)25

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