日本麻酔科学会 70周年記念誌
49/168

こに麻酔行為も含まれていたからである。それ以外にも縫合など侵襲的行為が入っており、多くの学会からの抵抗もあり、大幅に修正案が出された。しかし、最終的にワーキンググループ(2013年10月17日)から提示された「特定行為(案)」の中に、依然として気管挿管や抜管の実施が含まれていた。 行為名「気管挿管の実施」に、「医師の指示の下、プロトコールに基づき、身体所見(呼吸状態、努力呼吸の有無、SpO2など)や検査結果(動脈血液ガス分析、SpO2など)が医師から指示された状態の範囲にあることを確認し、経口・経鼻気管挿管を実施する」と記載されていた。 前もって医師の指示があれば、医師のいないところで看護師が気管挿管できるというものである。私たちは、すぐに10月26日付けで「看護師による「気管挿管」実施に関する緊急声明」(理事長発)を発表した。「医療安全の観点から、極めて問題が大きいという認識に立ち、これら(経口・経鼻気管挿管の実施と経口・経鼻気管挿管チューフの抜管)の医行為を、診療補助特定行為から外すように切に要望いたします」。 その後、私と齋藤理事は、厚労省の審議会に呼ばれて本ワーキンググループのヒアリングを受けた。そこでも私たちは気管挿管と抜管を外すように切に訴えたが、座長をはじめ看護師を含めたワーキンググループの圧力は相当なものだった。ただ、日本医師会の釜萢氏と在宅看護の専門家が私たちの意見を支持してくれた。そして最終的には、私たちの主張が通り、特定医行為から気管挿管・抜管は除外された。 「周術期管理チーム」構想の具体化が加速するのもこの頃である。それまでの動きとして2005年に「麻酔科医マンパワー不足に対する日本麻酔科学会の提言」が発表され、2008年にテキストの作成やセミナーの開催が始まっている。 そして、2014年に周術期管理チーム看護師の認定制度が始まる。2016年までの2年間で約1,000人の看護師の認定が行われ、2016年には薬剤師、2017年には臨床工学技士の認定試験へと広がった。 認定制度ができたからと言って、周術期管理チームが医療現場で実質的な役割を果たすことができたかというとそうではない。一部の施設では、麻酔診療の効率化、安全確保の向上、チーム医療の推進に貢献することができたが、全国的には広がらなかった。認定看護師が増えたものの、彼らが認知され、評価され、その役割を果たすには、診療報酬上の加算処置などが必要で、現実には難しいことが浮き彫りになった。 専門医制度も大きな転換点を迎える。準備段階を経て、2014年に日本専門医機構が発足し、本学会も基本診療領域の一つに位置づけられた。私たちは教育委員会を中心に綿密な打ち合わせと周知を行い、他の領域に先駆けて、2015年度から新制度を導入すべく準備を進め、研修プログラム認定とプログラム審査を早々に終了した。 しかし、日本専門医機構内での意見調整、とりわけ審査の在り方や研修プログラムにおける取得単位の範囲、採用者数などさまざまな問題が解決せず、暗礁に乗り上げる。制度開始は大幅に延期され、最終的に2018年4月からの開始となった。 問題は、麻酔科領域の採用数を5大都市については過去3年間の実績の平均を超えないことなど、制限が課されたことである。もともと学会の自律性を尊重し、厚労省の介入は極力抑えるというコンセンサスがあったにもかかわらず、これ以後、厚労省は専門医制度を利用して、地域偏在や診療科偏在を解消するための方策を打ち出していく。後に大きな問題となるシーリング制度の下地がすでにこの時点で織り込まれていた。法人化、公益社団法人化4 周術期管理チーム5 専門医制度41

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る