50周年の記念式典は、横浜のコンベンションセンター大会議場で行われたが、ほぼ満員だった。式典のあと、大江健三郎が記念講演を行った。大江氏は、「想像力だけが、ほかの人間の痛みを感じとらせる」というルソーの言葉を引用し、また、「痛みをとりのぞく仕事をしている人間」に「嫉妬を感じる」とも語った。 「痛みを取り除く仕事を専門にしている麻酔科医こそが、想像力を発揮する未来の人間になりうるのではないか」という大江氏の言葉から、私は麻酔科医としての未来に希望を感じた。 その後の20年で、麻酔科の仕事も、日本麻酔科学会の役割も変わっていった。私の理事長時代は一つの転換点だったのではないかと思う。国が研修医制度や専門医制度で若者たちを飴とシステムで包囲し、若者たちには、脱大学、脱医局、脱研究、脱集団、脱束縛、脱拘束といった空気が育ち始めていった。 麻酔科医の真価を発揮しようと舵取りを行った4年間だったが、果たして、真っ当な流れに舵を切ることができたのか、自分ではわからない。法人化、公益社団法人化<おわりに>43
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