日本麻酔科学会 70周年記念誌
53/168

おいて、麻酔科領域の患者安全に関する見解をEBA (European Board of Anaesthesiology:ヨーロッパ麻酔科医協会)とESAが共同で提唱した。それをWHO (世界保健機関)、WFSA (世界麻酔科学会連合)、そしてEPA (ヨーロッパ患者連合)が支持し、日本麻酔科学会は2015年6月に署名し翻訳した。宣言の中で麻酔安全に関係した各種プロトコルの作成が必須要項と定められていたことから、本学会でも医療と安全の標準化を進めるべくガイドライン整備事業が促進された。 これまで多くのリーダー(表2)が関わってきた継続的な安全事業に加え、1995年阪神・淡路大震災、2013年東日本大震災、そして2020年に始まったCOVID-19パンデミックへの対応など、多くの災害対応と医療供給体制の危機的状況に迫られた。安全委員会のみならず学会・会員が国民と一つになり、迅速な情報収集表2.歴代安全委員長(2001年以降)年度2001年~2002年2003年~2004年2005年~2006年2007年~2008年2009年~2010年2011年~2012年2013年~2014年2015年~2016年2017年~2018年2019年~2020年2021年~2022年2023年4月~7月小澤 章子*2023年8月~2024年藤村 直幸に基づいた的確な判断で、手術室および集中治療室を中心とした安全な麻酔科診療に対応したことは特記すべきことである。 本稿では安全事業に関しての難題も客観的に記載し、本学会名で発行された学術論文も重要な歴史として検索できた限り掲載した。事実誤認や調査不足に関してはご容赦の上ご連絡いただければと存じます。 麻酔に関する偶発症および医事紛争事案について、毎年JSA-PIMSにより偶発症[3-27]および周術期肺血栓塞栓症発症例[28-37]を集積し、論文で会員へフィードバックしてきた。近年は学術誌ではなくデータをHPにのみ掲載している[38]。その理由として私見であるが、これらの調査は世界でも類を見ない大規模データベースとはいえ、会員申告による収集は定量調査としての科学性に限界があること、後述する予後に大きな変化がないという現状がある。また、本邦の医学界全体で学術活動が低下している反面、ビッグデータ解析をできる麻酔科医が増加した背景も考えられる。◆麻酔関連偶発症に関する調査、周術期肺血栓塞栓症発症例調査1991年 麻酔関連偶発症例調査専門部会(旧手術室安全対策委員会、小林建一委員長 (1991年5月まで)、鈴樹正大委員長 (1991年6月から))が中心となって、麻酔関連偶発症例すなわち「原因の如何を問わず、麻酔がかかっている状況下で生命危機状態となった症例」の収集を計画。1992年 麻酔科認定病院の麻酔科管理症例を対象として収集開始。2002年 肺血栓塞栓症は、周術期の肺塞栓症発症による死亡事例の学会報告が急増した経緯から、周術期発症症例を別枠での収集開始(古家 仁WG長)。近年は黒岩政之委員を中心に解析。2003年 厚生労働科学研究費補助金「麻酔関連の医療事故を防止する方策を立案するための要委員長尾原 秀史大村 昭人森田  潔中馬理一郎横田 美幸前川 信博白石 義人瀬尾 勝弘飯田 宏樹廣田 和美山内 正憲周術期安全Ⅰ.統計調査・情報収集部門*総務委員長と兼務となったため交代45

元のページ  ../index.html#53

このブックを見る