ど活動エリアも拡大しております。一方で、全国の外科診療の全てを会員によってカバーできる体制には未だ至らず、行政や社会の公益社団法人としての期待に応えきれていない現状もあります。手術の低侵襲化が進む一方、高齢者や合併症を持つ患者割合は増加して、周術期を通して丁寧に管理する必要性は増しており、麻酔科医がより多くの場面で活躍する必要が求められております。さらに現在専門研修プログラム枠は、都市部にシーリングがかけられることにより、養成できる数が頭打ちとなり、麻酔科医の数を増やすという解決策が実現困難となりつつあり、学会運営としては、まさに岐路に立っていると考えられます。会員の臨床のエフォートの偏りによる研究力の低下も問題視され、学術団体としての発信力の低下も危惧されております。 これらを踏まえまして、本記念誌は、この20年に、当学会が周術期患者安全と予後の向上に果たしてきた成果、また解決・未解決の問題、新たに出現している問題などを取り上げ、麻酔科学会が、今後どのように進むのか、ということを考える材料を、読者の皆様に提供する企画といたしました。 本書は3部構成となっております。第一部は、2024年6月に第71回日本麻酔科学会年次学術集会において開催された70周年記念シンポジウム、記念講演の講演録、第二部はそれぞれの論点に基づき、歴代の理事長・理事経験者の方々や、現職の理事からの寄稿集、第三部は、年表形式で時系列に起きたことを概観しつつ、それぞれのエピソードについて当時を知る方にコメントしていただいた資料となっております。 本書によって、会員の皆様には本学会の歴史や意義を改めて理解することで、麻酔科学会員のアイデンティティを再認識していただいた上で、今後の方向性をそれぞれが考えていただきたいと思います。また一般の読者には、公益社団法人として麻酔科学会が果たしてきた役割と、今後の発展性を理解していただきたいと期待しております。2
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