日本麻酔科学会 70周年記念誌
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術後の回復までの管理へ渡る時間の流れから必然的に周術期へと麻酔科医が取り組んだ学問としての集中治療医学と学術団体である日本集中治療医学会 (1974年設立)は術後のみならず、呼吸・循環不全や敗血症などの重症患者の予後改善に現在も大きな役割を果たしている。COVID19が席巻した際のECMO治療を含む集中治療医の活躍は永く後世からも讃えられる史実となるであろう。ここに誌面を借りて改めて敬意を表したい。また集中治療専門医は2022年に集中治療科領域で日本専門医機構のサブスペシャルティ領域として麻酔関連領域では初めての認定を受けている。さらに関連して、麻酔科医の活躍が期待されている場として迅速対応チーム (RRT) や日本呼吸療法医学会 (1995年改称)が輩出を支援する呼吸療法サポートチーム (RST) がある。 麻酔学が術中の痛みを取り除く学問であり、麻酔科は痛みを取る臨床家であることは言うまでもなく、痛みの分野で多くの麻酔科医が活動を広げている、以下の二つの領域、ペインクリニックと日本ペインクリニック学会、緩和医療と日本緩和医療学会について述べることとする。日本ペインクリニック学会の歴史は古く、前身の日本ペインクリニック研究会が発足したのは1969年と記されている (1985年現学会となる)。2024年6月現在の会員数は約4,800名で麻酔科医が90%以上を占めるとされ[2]、麻酔科医の数としてはおそらく日本麻酔科学会に次ぐ関連領域団体で、痛みの診断と治療を専門とする医学を進歩・発展させ、その知識と技術の普及を図ることを目的として設置された。学会所属麻酔科医を中心に束ねられた数々のガイドラインやステートメントは必読に値する。薬物療法のみならず、神経ブロックや手術などのインターベンショナル治療における専門的手技の必要性から、1989年という麻酔科関連領域では、比較的早い時期から認定医制度を開始、2006年からはペインクリニック専門医の名称が冠された。現在日本専門医機構承認、日本麻酔科学会認定のサブスペシャルティ領域に2024年現在申請中である。またこのペインクリニック領域に発展した麻酔科医の果たしたもう一つの大きな足跡は、手術室外における一般の外来診療の実施であり、ペインクリニック開業による地域医療への多大なる貢献である。手術室外へ、病院外へと向かう導線は麻酔科医が今後も社会的認知度を高めるための重要なライフラインであることは紛れもない事実である。同じく痛みを扱う日本痛み関連学会連合の加盟団体のうち、麻酔科医の占める割合が多い団体として、日本慢性疼痛学会 (1992年設立)、日本疼痛学会 (1984年設立)がある[2]。ペインクリニック領域と並んで、がん緩和ケア領域への麻酔科医の活動は日本緩和医療学会 (1996年創設)を中心に広がりを見せてきた。2006年に制定された、がん対策基本法とがん対策基本計画を推進する厚生労働省の国策とも相まって、現在も末広がりに発展しており麻酔科医が参画している関連団体としては、2024年7月時点での会員数約12,000名余と最大規模を誇る。この緩和ケア領域の大きな特徴の一つは、多職種協働連携を早くから打ち出していることと、WHOや厚生労働省などの国内外の保健機関からの強力な推進力を得ていることである。またこの領域ではがん患者だけではなく、心不全患者の緩和ケアも含めたエンドオブライフケア全般の質の向上が図られており、さらなる麻酔科医の活動の進展の場として期待したい。 手術麻酔の枠組みや手術麻酔の臨床内容そのものもこの70年の間に時代の潮流とともに大きく変遷し、数多くの関連領域やその団体が育まれてきた。大きく分けると、1.対象患者あるいは手術別、2.麻酔薬や麻酔手技別、3.病態・治療別、4.その他に分類される。誌面の許す限り以下に列挙する。1.対象患者別に分けられた、麻酔科関連団体として、最も歴史がある一つが日本産科麻酔学会である。前身であ麻酔科医師活動範囲の拡大63

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