日本麻酔科学会 70周年記念誌
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0麻酔科医師活動範囲の拡大間を要し、少なくとも当初は、ICUを持つような(すなわち麻酔科医をたくさん擁しているような)各地域の中核的な急性期病院に患者が集中した。医療従事者の感染を防ぐ必要性もあり、COVID-19患者ケアには診療報酬で定められている7:1(一般病床)4:1(ハイケア)2:1 (ICU) などの看護師配置数では到底足りず、各病院とも病床を一部閉鎖して看護師を捻出することで、COVID-19患者対応用の病床を用意した。このため、一般診療が滞るケースが随所で見られた。 COVID-19では、感染者を収容する一般病床の不足とともに、重症者用の病床とそれを診る医療従事者(医師、看護師、その他)の不足が顕著であった。 そもそも日本は、国際比較において人口当たりの重症系病床数が少ない。日本の人口10万人あたり重症系病床数は4.3~13.5床と、アメリカやドイツの1/2~1/10程度しかなく、パンデミックの比較的早期に医療崩壊が起きたイタリア、スペイン、フランスなどと同程度である[2]。 日本は個々の集中治療室の規模も小さい。11床以上のICUやHCUは全体の2割であり。平均値はICUが8.7床、HCUが8.3床である[3]。従って、新型コロナウイルス患者を受け入れると、多くの病院で即座に通常診療に影響した。 ICUで重症患者を診る医師の数も不足したし、誰が診るのかという問題が生じた。日本では感染症内科医は圧倒的に不足しており、また彼らは人工呼吸管理のエキスパートではない。救急医や総合診療医が新型コロナ患者さんの診療の最前線に立った病院も多いが、彼らももともとが不足診療科であるため、新型コロナ感染者が押し寄せてくると、圧倒的なマンパワー不足に悩まされることになった。 COVID-19パンデミック中は、病院に対して病床確保等に補助金が出たが、それがなくなった2023年5月以降、多くの病院、特に早くからCOVID-19の受け皿になった公立・公的病院では苦しい経営状況に陥っている。急性期病院の収益は手術件数に大きく依存する。したがって、病院の生き残りのために麻酔科医への負担(期待?)はさらに高まって現在に至っている。 図2は厚労省が毎年6月下旬に公表する社会医療診療行為別統計 (6月1か月間の診療報酬審査件数の統計)より、「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔 1~5」 を合計した件数で推定した、各年6月1か月間の全身麻酔件数である。2020年に大きく落ち込んだ後、2021年、22年と徐々に回復し、2023年は2019年を上回るまでになった。パンデミック終息後の病院経営再建のため、各病院ともに手術患者を積極的に受け入れているのが見て取れる。図2 各年6月1か月間の全身麻酔件数の推移250,000200,000150,000100,00050,000201620172018201920202021202220232.露呈した重症患者対応力不足3.COVID-19後の病院経営出典:厚生労働省「社会医療診療行為別統計」より筆者作成https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1& toukei=00450048&tstat=000001029602(2024年6月27日 最終アクセス)各年のデータより、「マスク又は気管内挿管による閉鎖循環式全身麻酔 1~5」を合計した件数を縦軸に、西暦年を横軸にとった。67

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