者池田智明)は日本産婦人科医会の協力により、人口動態統計よりも高い補足率で妊産婦死亡症例を集積し解析してきた。それに基づく「母体安全への提言」が毎年公表され、大学病院と周産期センターの麻酔科部長宛に送付している。麻酔科医も含む症例検討評価委員会の分析により、過去13年間の558例中麻酔が原因での母体死亡は6例あり、内訳は帝切時の気管挿管困難3例、硬膜外無痛分娩中の高位脊麻2例、局所麻酔薬中毒1例であり、そのすべてが産科医による麻酔だった[4]。 かつて指摘された麻酔科医による帝王切開麻酔の質は改善し、麻酔偶発症例調査によれば2004年から5年間の18万8千件の帝王切開の麻酔中、麻酔が原因での死亡は1例もなかった。妊産婦死亡症例検討評価委員会の母体死亡分析からも、帝王切開の麻酔も硬膜外無痛分娩も、麻酔科医が担うことが安全性向上に不可欠であることが分かる。しかし現状では、麻酔科医は帝王切開麻酔の51%、すべての無痛分娩の27%しか担っていない[5]。産科診療不妊治療妊娠中の手術胎児治療妊婦の急性・慢性痛治療帝王切開無痛分娩急変対応 産科診療における麻酔科医の役割は、帝王切開麻酔と無痛分娩に限らず多岐にわたる。表にそれらの役割と麻酔科医関与の現状および課題をまとめた。これらの産科麻酔診療を担えるようになるために、日本麻酔科学会教育ガイドラインや、日本産科麻酔学会 (JSOAP) と日本周産期麻酔科学会 (JAPA) が共同で作成した、「周産期・産科麻酔教育ガイドライン」[6] (2023年)が役立つであろう。本ガイドラインは、麻酔科医が産科麻酔について学習する際の到達目標を示すだけでなく、指導のための指針を整理することを目的としていることも特徴である。 妊産婦は慢性痛を有していることもあれば、妊娠により生じる特有の痛みもある。妊婦での鎮痛薬使用や持続硬膜外鎮痛に詳しい産科麻酔科医は、ペインクリニシャンと相談して最適な診療を提供できるであろう。また、妊産褥婦の急変は、産科疾患でもその他の疾患(劇症型A群溶連菌感染症、新型インフルエンザウイルス現 状関与限定的ほぼ全例担当侵襲的術式では関与ペインクリニシャンが産科麻酔コンサルト手術室で担当課 題麻酔科医不在の専門施設、限定的な診療報酬妊婦加算チームの一員として高い専門性に応える診療ガイドライン作成ペインクリニシャンと産科麻酔科医の協力麻酔科医担当割合を増やすFamily centered cesarean deliveryとEnhanced Recovery After Cesarean (ERAC) の普及麻酔科医担当割合を増やすマニュアル作成に麻酔科医が関与産科病棟や分娩室でも対応集中治療医・全身管理医の産科病態理解を支援し協力する表:産科診療における麻酔科医の役割と現状および今後の課題麻酔科医の役割日帰り麻酔麻酔と全身管理妊娠継続胎児麻酔母体鎮痛・鎮静ペインクリニック産科病態・緊急度と母体合併症に応じた周術期管理51%を担当硬膜外無痛分娩IV-PCA27%を担当麻酔、鎮痛・鎮静全身管理、集中治療●多岐にわたる産科麻酔診療70
元のページ ../index.html#78