やSARS-CoV2ウイルス感染による急性呼吸不全、肺血栓塞栓症など)によっても生じる。特に妊娠中の全身管理には、産科麻酔の知識が役に立つため、集中治療医との協働により力を発揮できる。 胎児治療を提供する施設は限られているが、子宮切開を伴う治療が行われるようになってきた。健康保険収載も広がっている。EXIT (Ex Utero Intrapartum Therapy) を行った施設は子宮切開を伴う治療を行っている施設よりもっと多い。麻酔科医は子宮筋弛緩と胎児循環維持を担い、母体の安全を確保し治療を成功に導くために、チームの一員として務めを果たすことが求められている。 妊産婦死亡症例調査から、母体死亡原因の第一位が出血であることが判明した。そこで日本産婦人科医会は、日本麻酔科学会を含む6団体と共に、「日本母体救命システム普及協議会 (J-CIMELS: Japan Council for Implementation of Maternal Emergency Life-Saving System)」を2015年に設立した。そして全都道府県でJ-MELS (Japan Maternal Emergency Life Support) コースを開催している。硬膜外鎮痛急変対応コースを含め、麻酔科医は救命救急医と共に、全身管理医として母体急変対応講習会のインストラクターを担うことが期待されている。 2017年に硬膜外無痛分娩に起因する母体死亡や重篤後遺障害の報道が相次いだことを受け、厚生労働科学研究班が組織され(主任研究者海野信也)、2018年には無痛分娩関係学会・団体連絡協議会 (JALA: Japan Association for Labor Analgesia) が日本麻酔科学会を含めて組織された。JALAは無痛分娩の安全性を確保するために各種講習会を提供・認定し、無痛分娩提供施設の情報を公開し、有害事象を分析し始めた。 日本の無痛分娩率は、筆者らによる2006年の推計値である2.6%から、2020年の厚生労働省医療静態調査で初めて報告された8.6%へ、そして日本産婦人科医会施設調査による2023年の11.8%へと増加し続けている。産痛緩和に対する産婦や社会の意識は、明らかに変化したことを実感する。安全で効果的な無痛分娩をどこでも何時でも受けることができるのは、女性の権利と言える。麻酔科医による硬膜外無痛分娩が産後過多出血を減らし、重篤合併症を減らすとの報告が相次ぐ現在、硬膜外無痛分娩へのアクセスを向上させることは、公衆衛生上の課題との声もある[7]。麻酔科医の専門家集団が、産科医や助産師、行政や地方自治体と協力して産科医療提供体制を整備しつつ、麻酔科医への無痛分娩研修機会を増やし、より多く硬膜外無痛分娩を提供することが求められている。 産科診療における麻酔科医の役割を日本麻酔科学会設立70周年の機会に振り返り、今後の課題を記した。産科麻酔診療は多岐にわたり、未解決のclinical question (CQ) も多い。麻酔科医は研究によりそれらのCQに答え、教育を通じて産科麻酔診療を担う麻酔科医を増やし、その水準をさらに高め、産科診療における麻酔科医の役割を存分に果たすことが社会から求められている。文 献[1] 50周年記念特集.麻酔 第53巻臨時増刊号、2004年,P. 33・P. 34[2] 川島康男.特集【産科麻酔はいま】日本の産科麻酔.臨床麻酔26巻3号 Page 447-452 (2002)[3] Nagaya K, Fetters MD, Ishikawa M, Kubo T, Koyanagi T, Saito Y, et al. Causes of maternal mortality in Japan. JAMA; 283: 2661-7. doi: 10. 1001/jama.283.20.2661. PMID: 10819948[4] Hasegawa J, Kato K, Tanaka H, Tanaka K, Nakamura M, Terui K, et al. Maternal deaths associated with obstetric anesthesia: Nationwide analysis of maternal mortalities in Japan (in submission)[5] 松田秀雄.無痛分娩 産科施設の立場から~日本 麻酔科医師活動範囲の拡大●産科診療における麻酔科医のこれからの役割●おわりに71
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