日本麻酔科学会 70周年記念誌
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を除く)が継続的に最多である。令和2年12月31日現在における全国の届出「医師」339,623人のうち、麻酔科と回答した医師数は10,277人で、全医師の3.2%(男性総医師の2.4%、女性総医師の5.7%)である。平均年齢は44.8歳で、全医師平均年齢の50.1歳より若干若い。また、医療施設に従事する麻酔科標榜医でみると、総数12,179人(男性8,338人、女性3,841人、平均年齢50.3歳)となっている。麻酔科と回答した医師よりも麻酔科標榜医が多いのは、他の診療科を専門としながらも麻酔科標榜医である医師が比較的高年齢層に多いことを意味している。こうした麻酔標榜医に関して石川は「過疎地域の麻酔科業務の充実に貢献するなど、麻酔科の充実に貢献している可能性が示された一方で、麻酔科専門医と異なり更新がないことから、教育制度の整備について検討が必要である。」と指摘している[2]。 日本麻酔科学会の会員数年次推移(図1) を見ると、かなりの勢いで増加していると見えることから、しばしば麻酔科医師は充足しつつあるという趣旨の発言が聞かれるが、外科を中心とした執刀科から独立した歴史は相対的に新しいことから、増加していることをもって充足しつつあるということにはならず、日本麻酔科学会は様々な数値を提示して、まだまだ本邦では麻酔科医師が不足していることを繰り返し説明している。その一例として、日本麻酔科学会はホームページ上に「マンパワーアンケート」の結果を継続的に提示している。本原稿作成時の最新のものは、「麻酔科医のマンパワーに関する調査(マンパワーアンケート)」結果報告(概要)2015年1月9日であるが、これ以前にも繰り返し調査が行われており、2012年、2004年分が同様に発表されている[3-5]。 不足している常勤麻酔科医師によってカバーしきれない麻酔関連業務は非常勤の医師等によって穴埋めされることも多く、各医療機関における非常勤の麻酔科医師の実態も調査されている。この調査の背景には、医療系他団体等から、非常勤の勤務を日替わりで組み合わせることを生業とする、いわゆるフリーター麻酔科医師が、依頼元医療機関に多額の報酬を要求することが頻発しているという社会的批判に対して正しい実態調査を行う必要に迫られたことがある。この調査は、日本麻酔科学会、日本外科学会、日本整形外科学会が質問の内容ならびに対象施設を事前に協議した上で実施しており、対象施設は手術関連の診療報酬を請求している全国5,013施設、2018年11月1日から12月20日の回答期間に1,420施設が回答している。その結果、大学病院を含む多くの医療機関が常勤医師だけで麻酔関連業務をカバーしきれず、非常勤の医師を他病院や派遣会社に要請している実態が明らかになった[6]。 現状では医師不足、麻酔科医師不足の状態ではあるが、勤務時間制限を伴った「医師の働き方改革」が進められつつある。厚生労働省のホームページでは、「働き方改革」の目的について以下のように記している[7]。「我が国は、『少子高齢化に伴う生産年齢人口の減少』『育児や介護との両立など、働く方のニーズの多様化』などの状況に直面しています。こうした中、投資やイノベーションによる生産性向上とともに、就業機会の拡大や意欲・能力を存分に発揮できる環境を作ることが重要な課題になっています。『働き方改革』は、この課題の解決のため、働く方の置かれた個々の事情に応じ、多様な働き方を選択できる社会を実現し、働く方一人ひとりがより良い将来の展望を持てるようにすることを目指しています。」日本の時間当たりの低い労働生産性($47.5/時間、OECD加盟国36カ国中20位)を改善するという目的もあり、2016年9月に「働き方改革実現会議」が設置され、2017年3月には「長時間労働の是正」「柔軟な働<医師不足、麻酔科医師不足のなかでの働き方改革>74

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