現代医療の目覚ましい発展に多くの麻酔科医が貢献してきた。しかし、麻酔科医の労働環境の改善は見られなかった。特にこの20年間の労働環境は相当厳しい状況である。そして、過重労働からくる麻酔科医の疲労は医療安全上大きな問題となっている。ここでは、麻酔科医の過重労働解決の鍵となる可能性のある多職種連携について考えてみたい。1)周術期管理チーム推進の歴史 日本麻酔科学会は2005年に麻酔科医マンパワー不足に対する提言を発表した[1]。その背景には、2003年から包括医療費支払い制度 (Diagnosis Procedure Combination: DPC) が始まり、手術や麻酔などの出来高評価分を増やさないと病院収益が増えない状況になったこととで手術件数が急激に増加し始めたことがある。この手術件数の増加の特徴は、米国麻酔科学会Physical status (PS) 1 の患者の手術件数はほとんど変化がなかったのに比較し、PS2以上の患者の手術件数が大幅に増加したことである。すなわち、労働時間が単に増えただけではなく、難易度の高い仕事が増えたことが問題であった。したがって、麻酔科医だけで周術期の患者の安全を担保するのは非常に困難な状況になった。提言の要点は、麻酔科医のマンパワー不足による医療安全レベルの低下を防ぐために、周術期医療にかかわる麻酔科医、看護師、薬剤師、臨床工学技士などが役割分担をして、医療安全のレベルの維持を目指すというものである。いわゆる多職種連携の重要性を指摘しており、これは時代を先取りした提言であった。 その後、日本麻酔科学会は多職種連携の実現に精力的に取り組んでいる。2007年に周術期管理チーム構想を発表し、翌年の2008年には第1回周術期管理チームセミナーを実施している。その後、2010年に周術期管理チームテキストを発刊し、2021年には第4版を出版している。周術期管理チーム認定制度も2014年から看護師の認定を開始し、2016年から薬剤師、そして2017年に臨床工学技士の認定を開始している。周術期管理チーム認定制度開始後、看護師の認定資格保有者数は順調に増加し、ここ数年間は2,000人以上を維持している。薬剤師や臨床工学技士の認定資格保有者数も増加傾向にある(図1)。また、周術期の口腔ケアの重要性の指摘を受け、2015年度より日本口腔外科学会にも周術期管理チーム事業に参画してもらっている。多診療科多職種が連携して10年がかりで看護師、多職種連携日本麻酔科学会周術期管理チーム委員会委員長山口大学大学院医学系研究科 麻酔・蘇生学講座第2部 寄 稿はじめに1 タスク・シフト/シェアの流れ78松 本 美志也周術期管理チーム、特定行為研修を安全なタスク・シフト/シェアに繋げられるのか
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