日本麻酔科学会 70周年記念誌
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職種が 実施可能な業務について、医師から他の医療関係職種へのタスク・シフト/シェアを早急に進める必要があるというものである。すなわち、医師の業務量削減が第一義的目的であることが明確化されている。 確かに医師の業務量削減は喫緊の課題であろう。しかし、麻酔科医の業務に関しては厚生労働省の通知より前から、麻酔科医の限られたマンパワーと手術件数を維持しなければ病院経営が成り立たない状況とのバランスを取るために看護師を中心にタスク・シフト/シェアが進められてきた。その一つが周術期管理に関する看護師資格の創設である。前述の周術期管理チーム認定看護師、特定行為研修修了者以外に、手術看護認定看護師、診療看護師、周麻酔期看護師の資格がある。この中で周術期管理チーム認定看護師資格だけが資格取得に研修期間を義務付けていない。これは、日本麻酔麻酔科学会がこの資格を周術期における基礎的な知識を学んだことを証明する第一歩となる資格と位置付けているためである。すなわち、日本麻酔科学会は周術期の患者管理における系統的な知識の習得がまず重要であるという立場である。現在懸念すべき点として、麻酔科医業務のタスク・シフト/シェアが進む中、看護師が行うことができる医療行為の範囲が曖昧になってきている可能性があることがあげられる。そのような状況を踏まえて日本麻酔科学会は2023年に麻酔関連業務における特定行為研修修了看護師の安全管理指針を発表している。 前述のように厚生労働省が推進している医師業務のタスク・シフト/シェアは医師の過重労働を軽減することが主な目的であるが、施設によっては業務を受ける側のマンパワーが十分ではないことが大きな問題である。厚生労働省は2024年までに看護師特定行為領域パッケージ研修の修了者が1万人程度となると各領域でタスク・シフト/シェアが可能になると試算していたが、2023年2月の時点で領域別パッケージ研修修了者の総数は845人と目標には程遠い数字である。 業務を受ける側のマンパワーが不十分なのは看護師のみではなく薬剤師も同様である。日本国内での薬学部の新設により薬剤師数は増えているが、病院または診療所勤務の薬剤師数の増加が薬局勤務の薬剤師数の増加に比較して少ない。実際、病院または診療所勤務と薬局勤務の薬剤師数は1990年にそれぞれ4.1万人と4.9万人であったが、2020年には6.2万人と18.9万人である。厚生労働省もこの点は危惧していると思われ、タスク・シフト/シェアを効率的に進めるために注意すべき事項として、タスク・シフト/シェアを受ける側の余力の確保をあげている。 前述のようにタスク・シフト/シェアを受ける側の余力の確保も十分でない状況でタスク・シフト/シェアを進めることができるであろうか。筆者の意見は無理のない範囲で術後疼痛管理チームの立ち上げから行うのがよいというものである。周術期管理は術前管理、術中管理、術後管理で構成され、術後疼痛管理は術後管理の中の一部である。すなわち、周術期管理の中の一部から始めて全体に広げていくという考え方である。幸いなことに、2022年度診療報酬改定で術後疼痛管理チーム加算が認められた。これは麻酔科医、看護師、薬剤師の3者に可能であれば臨床工学技士を含めたチームを編成して、患者の術後疼痛管理を行えば診療報酬が加算されるという制度である。日本麻酔科学会も診療報酬加算が認められた直後より術後疼痛管理研修プログラムを立ち上げ、術後疼痛管理チームの活動を支援してきた(図3)。術後疼痛管理においては、特定行為研修修了者は特定行為を行う場面が少ないので物足りないと思うかもしれ4 安全なタスク・シフト/シェアを進めるために3 タスク・シフト/シェアの問題点80

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