中に器具を用いた実技試験の要素も組み入れられてきたが、2003年からは口頭試験とは別室で実技試験が行われ、筆記試験・口頭試験・実技試験の3試験の形態に変わり、実地試験は口頭試験・実技試験で合否判定がつかなかった受験者への確認の試験として少人数に行われることとなった。受験者の増加と実技試験が加わったことにより、試験官の増員が必要となり、70名程度の試験官が3〜4日間試験会場に拘束されて、試験を行う体制になった。また、口頭試験、実技試験の受験者の評価は用紙に記載し、それをさらに集計用紙に転記して、合否判定委員会で使用していたため、その集計に時間がかかり、合否判定委員会が深夜に及ぶこともしばしばあり、試験官と事務局の負担となっていた。 そのため、2014年からは全ての試験官がパソコンかiPadで評価を入力し、それを試験本部のサーバーに送り、採点・集計するシステムを使用している。情報漏洩を防ぐため、ホテルの通信環境は使用せず、独自の有線でイントラネットを2系統作成し、サーバーも二台配置して、万一の事態に対応できるようにしている。このシステムを開始してから、合否判定も短時間で終了し、さらに問題の難易度による点数補正も容易となった。また、試験会場のポートピアホテルでは、多くの客室を口頭試験室、実技試験室に変更し、さらに全ての試験室へのネット配線やサーバーの設置を行うため、ポートピアホテルの全面的な協力と、それを推進した事務局の熱意がなければ、このような質の高く効率的な試験は実現し得なかった。 2020年からの新型コロナウイルス感染症も専門医試験に大きな影響を与えた。2020年の専門医試験は、感染症対策として試験会場を増やし、受験者間の間隔をひろげ、試験日前の状況についての宣誓書の提出と、試験会場入室時の体温チェックを行った。しかし、実技試験は新型コロナウイルス感染の可能性が高いことから中止し、指導医による評価表を用いた審査に変更した。2021年も同様の体制で試験を行なったが、幸い試験中試験後に新型コロナウイルス感染症の影響は報告されていない。 2021年の専門医試験は、もう一つ大きな課題を抱えていた。それは2018年開始の日本専門医機構プログラムでの専攻医と2017年開始の日本麻酔科学会プログラムの専攻医の受験が重なり、通常の2倍の受験者になるという問題であった。日本専門医機構プログラムの専攻医はプログラム4年目での受験であり、日本麻酔科学会プログラムの専攻医は4年のプログラム修了後、5年目での受験になるので、受験年度が重なったのである。800名以上の受験者であったが、試験時間の検討、試験室の増加で、大きな問題なく終了することができた。 2023年から、筆記試験を将来のCBT化も見据えて、全国各都道府県の試験会場でのPC受験に変更した。それまでは東京か神戸での受験であり、受験者の負担を減らし利便性が大きく向上したが、実施するにあたり、担当業者と試験問題の秘匿性の確認、カンニング対策、PC不具合時の対応、災害時の対応など、事前に入念な話し合いを行い万全を期して、問題なく終了した。 専門医試験受験者数と合格者数の推移を図に示すが、2004年から開始された初期研修制度の義務化で2008年から2010年は減少しているものの、以降は400人台を保っている。また合格率も、ほぼ80%と安定している。 最後に、専門医制度に関する過去の最大の汚点について述べなければならない。それは2003年6月12日に朝日新聞に報道された麻酔科専門医試験問題漏洩事件である。 問題作成委員が自分の部下に問題を教えた、という事件で、麻酔科学会が情報を把握する前に、朝日新聞が報道したため、その後の対応に執行部は大変苦慮した。当事者は厳しい懲戒処分を受け、それ以降試験に関する情報に関して厳格な機密の保持が行われている。84
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