薬物依存

薬物依存

薬物依存症とは

薬物乱用と薬物依存

薬物乱用:
社会規範から逸脱した目的や方法で薬物を自己摂取すること。 違法な薬物の場合、使用回数にかかわらず使用すれば乱用であり、 市販薬の場合は定められた用法を守らないで使用すれば乱用となる。 違法薬物の乱用は刑事司法手続きによる処罰の対象となる。

薬物依存:(Addiction)
薬物乱用を継続するうちに薬物に対するコントロールを喪失した状態、つまり止めようと思っても止められない状態のこと。

薬物中毒:
覚醒剤精神病などに起因する幻覚妄想症状を意味する慢性中毒と、薬理作用による急性中毒がある。 精神科医による治療の対象となる。

麻酔科医と依存症

麻酔科医が陥るのは、乱用と依存症の両者が考えられる。特に問題となる状況は依存症に陥った場合である。
一旦依存症に陥った場合、これは進行性の病気であり、回復したように見えてもその過程は薬物を止め続けている状態であり、 「依存症に関しては完全治癒はあり得ない」というのが現在の考え方である。 そうなると、一旦依存症に陥った麻酔科医は麻酔を続けることはできない、という厳しい考え方に立って対処する必要がある。
したがって、興味本位や、現実逃避、ストレスなどから乱用した場合、その早い時点で発見し、 依存症に陥らない状況で救済する必要がある。
法的な面からは、薬物の入手方法が違法であれば、それを発見した時点で刑事告発もやむをえないと思われるが、 施設内でまず検討するなど、法的手段に関しては慎重に対処すべきである (日本ではまだDrug Courtの考え方は広まっておらず、実施している裁判所もない)。

発見するために

乱用や依存症に陥っている麻酔科医が自ら告白することはまずあり得ない。 従って疑わしい人物の早期発見・対処のためには、定期的にチェックを行うことや、 職場の友人や肉親が薬物依存に関する知識を十分に持つことなどができるようになる「システム」の構築が必要である。

診断

チェックリストによる診断

本人による自己診断以外に友人、同僚、家族などによる定期的(年に1回)な相互チェック、 あるいは上司によるチェックが必要である。日本麻酔科学会では、麻酔科認定病院に定期的なチェックを義務づけており、 チェックリストの公開を行っている。

病院内外での尿検査による診断

現在の市販試薬が検出できる薬物の種類は少なく、検査への同意、費用、法的根拠等未解決の問題は多い。 しかし、その防止効果は極めて有効であることが経験的に証明されている。

チェックリスト

病院内

1 麻薬処方量が増加する
2 気分変化が激しく、うつや怒り、興奮、多幸感などを繰り返す異常な行動様式を示す
3 診療録の記載が雑になり、読みづらくなっている
4 麻薬処方量が施行手術に不釣合いに多量となる
5 食事交代や休憩交代を断るようになる
6 一人で麻酔をすることを好む
7 緊急手術でも麻薬を大量に用いる心臓外科手術などは進んで引き受けようとする
8 他の人の麻酔を進んで交代しようとする
9 仕事が終っても遅くまで病院にいることが多くなる
10 通常の仕事以外(当直など)も志願することが多くなる
11 しばしば症例と症例の合間には連絡が取れなくなる
12 回復室での麻薬投与も自分で行うと言い張る
13 トイレ交代の要求が多くなる
14 注射痕を隠すためや麻薬使用時の寒気を防ぐために、長袖の上着をよく着用する
15 瞳孔は縮瞳していることが多い
16 ICU入室時に患者が麻酔記録上の麻薬使用量に不釣り合いな術後疼痛を訴える
17 体重減少や皮膚蒼白がみられる
18 注射している現場が発見されることがある

病院外

1 家族や友人から離れ、趣味の仲間からも遠ざかっている
2 気分変化が激しく、うつや怒り、興奮、多幸感を繰り返す異常な行動様式を示す
3 異常な浪費、違法行為(飲酒運転)、ギャンブル、不倫、職場でのトラブルなどがよくみられる
4 家庭内の不和、喧嘩、論争が頻繁に、しかも激しくなる
5 頻回に職場をかえている
6 薬物のそばに居ようとする。仕事が無いときでも遅くまで病院に残ろうとする
7 トイレや他の部屋に鍵をかけて閉じこもるようになる
8 錠剤、注射器、酒壜などを身の回りに隠すようになる
9 血の付いたアルコール綿や注射器の放置を認める
10 発汗やふるえなど、禁断症状がみられることがある
11 瞳孔が縮瞳していることが多くなる
12 体重減少や皮膚蒼白がみられる
13 注射痕を隠すためや麻薬使用時の寒気を防ぐために、常に長袖の服を着ている
14 薬物を注射している現場を見られることがある

取り組み

依存症に陥った場合、適切で十分な治療と監視が不可欠である。 そうでなければ、現職復帰は不可能である。回復過程においても「3ヶ月間、1日3回のミーティングに出席(DARCの場合)」など、 社会的な活動はすべてストップする。また、回復過程は一生涯続くため、将来設計なども含めた幅広い支援が必要である。

日本麻酔科学会では、啓発ポスターの制作、協力団体への要請のほか、本人、 家族から学会として対応することに賛同を得られた場合は、 麻酔科学会が指定する回復支援プログラムを実行する特定の施設(非公開)の医師の紹介を行っている。

薬物依存ポスター(PDF)

相談窓口(お問合せ)

薬物依存症として発見されたとき
疑わしい麻酔科医がおり、相談したい場合
薬物乱用あるいは依存症本人から相談したい場合

下記より日本麻酔科学会事務局までご連絡ください。

お問い合わせ