よくある術前合併症

認知症

日本の高齢化は着実に進行しており、65歳以上の高齢者は2040年には35%を超えると予想されています。 年を重ねるほど認知症になりやすくなるため、認知症患者さんも着実に増加していきます。

全身麻酔を受けた際に、認知症は悪化するのでしょうか?

これを読まれている皆さんの関心事が、この質問であると思います。 現段階でのさまざまな専門家の意見をまとめた答えは、「手術前から存在する認知症は、麻酔薬によって悪くなる可能性があるが、 悪化の程度や予防策はまだまだ明らかにはされていない。」であり、結論がでていません。

術後せん妄と術後認知機能障害

皆さんが考えている認知症とは別に、手術後におこる可能性があるものに“術後せん妄”と“術後認知機能障害”があります。 “術後せん妄”は、手術後に意識・注意・知覚障害が出現し、1日のうちでも症状の波(日内変動)がみられる病態で、経過とともに改善することが多いです。 一方、“術後認知機能障害”は、手術や麻酔を受けた高齢患者さんにおいて、記憶・注意・遂行機能・言語などの神経認知機能の障害が日内変動なく出現し、 改善には時間を要するか、あるいは改善しない場合もあります。両者とも手術による脳内の神経炎症が主な原因と考えられており、 最も関連する危険因子は加齢であると言われています。“術後せん妄”が、“術後認知機能障害”に移行するか否かはまだ解明されていません。

“術後認知機能障害”の発生率と長期的な影響は?

“術後認知機能障害”の発症率は、報告によって約15-50%と差がありますが、高齢者ほど多い傾向があり、加齢や手術前からの認知機能低下が危険因子と言われています。 現時点では手術や麻酔が長期にわたって認知機能に影響を与えるかどうかは不明です。

認知症患者さんの全身麻酔は、どのように行われているのですか?

“術後認知機能障害”の発生に全身麻酔や局所麻酔などの麻酔方法の違いや、低酸素や低血圧を含む手術中の循環動態との関連性はわかっていません。 認知症に対しても“術後認知機能障害”の予防に関しても、確立された方法はありませんが、麻酔薬の過量投与や深すぎる麻酔を避けることは脳への影響を減らす可能性があり、 それらに注意しながら麻酔を調節しています。

認知症や“術後せん妄”、“術後認知機能障害”と全身麻酔との関連性、症状を悪化させないようにする予防法については、 まだまだ未解明な部分が多く今後の課題のひとつとなっています。その中で、認知症を持つ方に対する麻酔に関して、 現在の知見をもとに最良の麻酔方法を提供していく努力が積み重ねられています。