よくある術前合併症

胃食道逆流・消化管通過障害

胃食道逆流・消化管通過障害

胃食道逆流とは、胃内容物が食道や咽頭・口腔内へ逆流することです。そのため、逆流物(胃酸)による胸やけ、 咽頭・口腔内の苦みや酸っぱみ感、それらを伴うげっぷなどの症状が現れます。胃酸の逆流は食後2〜3時間以内におこることが多いとされ、 成人の10〜20%は普段から胃食道逆流をおこしていると推測されます。
消化管通過障害とは、口から肛門まで続く消化管がいずれかの場所で狭くなり、物が通らなくなった状態です。 通過障害の原因は、がん、癒着、炎症、他の臓器による圧迫などさまざまです。腹痛、嘔気や嘔吐のような症状のほか、 時に消化管破裂をおこすことがあります。

胃食道逆流・消化管通過障害と誤嚥性肺炎

誤嚥性肺炎とは、食物や唾液、胃酸などが意図せず気管に入ること(誤嚥)により生じる肺炎のことです。 飲み込む機能が低下した患者さん(高齢者や脳血管障害、パーキンソン病など)では、誤嚥性肺炎がおこりやすくなります。 また、胃食道逆流や消化管通過障害のある患者さんでは、逆流した消化液(胃液や腸液)により肺が障害されること(化学性肺炎)、 消化管内の細菌が肺に流入することで、肺炎が重症化することがあります。

全身麻酔と誤嚥予防

全身麻酔を受ける患者さんでは、全身麻酔薬により意識がなくなった後に、口から気管にチューブを挿入して呼吸の通り道を確保します(気管挿管)。 意識がなくなってから気管挿管までの間は、健康な患者さんでも誤嚥がおこりやすい瞬間です。胃食道逆流や消化管通過障害があると、さらに誤嚥の可能性が高まります。 全身麻酔に伴う誤嚥性肺炎の発生頻度は、およそ2000〜3000件に1件とされます。全身麻酔による意識消失後の誤嚥の可能性を低下させるために、 あらかじめ胃内容物と胃酸の量を減らす必要がありますので、手術前の絶飲食の指示を必ずお守りください(表1)。
誤嚥をおこす危険性が高いと判断される場合(緊急手術や誤嚥の可能性の高い患者さん)には、胃内容物を吸引するため、全身麻酔の前に胃内へ管を入れることがあります。 また誤嚥防止のため、全身麻酔の際に喉を圧迫することや意識がある状態で気管挿管を行うことがあります。
全身麻酔終了後にも誤嚥がおこりえます。 手術後は一過性に嚥下機能や消化管の運動が低下します。患者さんの状態に合わせて飲水や食事を再開しますので、必ず指示に従ってください。
(表1)絶飲食時間
  2時間以上 4時間以上 6時間以上 8時間以上
種類 清澄水 母乳 軽食、人工乳 食事
詳細
果肉を含まないジュース
炭水化物飲料
ミルクを含まない茶類
ブラックコーヒー
母乳 トースト
シリアル
スープ
果肉を含むジュース
牛乳
揚げ物
脂肪を含む食事