よくある術前合併症

悪性高熱症と麻酔

悪性高熱症

悪性高熱症は、いくつかの麻酔薬(揮発性吸入麻酔薬や脱分極性筋弛緩)の投与をきっかけとしておきる重篤な合併症です。
全身麻酔をうけた患者さん10万人のうち1人から2人に発症するといわれており、男性のほうが女性より3倍多く発症します。 日本では、1960年から現在までで400人以上の発症が報告されています。 過去(1960年代)には死亡率が70-80%と非常に高かったのですが、病気や治療法の理解が進んだ2000年以降では15%程度にまで減少し、 悪性高熱症に効果的な治療薬であるダントロレンを用いた場合には10%以下とされています。

悪性高熱症の主な症状

多くは麻酔中に発症するため、患者さんは自覚症状がないことがほとんどです。 血液中の二酸化炭素の増加、脈拍数の上昇、不整脈や筋肉の強直がおこり、時には40℃を超える体温上昇などがおこります。 血液は高度に酸性化し、筋肉が崩壊することにより赤褐色からコーラ色の尿が出ます。 血液中のミネラルの調節ができなくなり、心停止に至ることもあります。 また腎臓や心臓、脳など多くの臓器を傷害することもあり、その場合には救命されたとしても、 歩行障害などの筋肉障害や意識障害などの後遺症が残ることがあります。 このため、いかに発症を予防するかが重要となります。

予防と治療

遺伝的に悪性高熱症が発症するリスクのある人が存在しているのですが、その人たちには日常生活での特徴的な症状がなく、 手術前の検査異常がなくても悪性高熱症を発症することがあります。 発症予防のためには、麻酔前にしっかり情報をいただくことが大変重要になります。 例えば、ご自身はもとより、血縁者の方が全身麻酔の際に「悪性高熱症を発症した」、 「原因不明の高熱、筋強直、赤褐色尿などがおこったと聞いた」などの情報をお持ちでしたら、 必ず麻酔科医までお申し出ください。そのほか、クレアチンキナーゼという酵素の値が高い場合、運動誘発性横紋筋融解症、 先天性ミオパチー、セントラルコア病、マルチミニコア病、キング-デンバーロウ症候群、 先天性筋線維不均等症などの希少疾患が悪性高熱症の危険因子があるといわれています。 上記に該当される方には詳しくお話を伺うことがあります。
日本麻酔科学会は2016年に「悪性高熱症患者の管理に関するガイドライン2016」を策定し、準備、対策、治療の方法だけではなく、 患者さんやご家族の方にお伝えする方法などを広く学会員に周知いたしております。 日本麻酔科学会認定病院では、特異的治療薬ダントロレンの常備を推奨し、 万が一悪性高熱症が発症した際の対処法などをガイドラインとして制定しています。 確定診断をされた方はもちろんのこと、疑わしい場合も麻酔科学会認定施設で麻酔を受けることを推奨します。