肥満と全身麻酔
はじめに
肥満は生活習慣病としてとらえられ、高血圧、糖尿病、虚血性心疾患、肝障害、脳梗塞、睡眠時無呼吸症候群など、健康に悪影響を及ぼすことはよく知られています。
このため、肥満の方は全身麻酔や手術に伴う危険性が高く、時に周術期に命に係わる合併症を引きおこしかねません。
手術に万全に備えるためには、食生活の見直しなどを含め、持病のコントロールが望ましいとされています。
肥満と気道確保
全身麻酔中は人工呼吸のためのチューブを気管内に挿入(気管挿管)しますが、肥満の方はその操作が困難なことがあります。
またフェイスマスクを用いて人工呼吸をするときも、舌がのどの奥に落ち込みやすいためこれも難しいことがあります。
万全を期すために、のどに局所麻酔をして気道確保してからお眠りいただいたり、鼻から酸素を投与しながら入眠していただくなどの策を講じることがあります。
肥満と肺合併症
肥満の方は、脂肪組織により胸やお腹が圧迫され、呼吸に際して肺がつぶれやすく、ふくらみにくいという特徴があります。
このため、手術中の酸素の取り込みに支障が出るほか、肺がつぶれて手術後の肺炎もおこしやすくなります。
麻酔後に人工呼吸を継続してゆっくりと覚醒させる、覚醒後に酸素投与のための器具を装着するなどの処置が必要になることがあります。
肥満と血栓
肥満は肺塞栓症という怖い病気の危険因子のひとつです。エコノミークラス症候群という病名の方が有名かもしれません。
血液の流れが悪くなると主に足の血管に血栓(血液の塊)が生じやすくなり、これが飛んで肺の血管に詰まってガス交換が難しくなる病気です。
肥満の方は血流障害がおきやすいため、このリスクが高くなります。重症な例では命にかかわるので、入念に予防策を講じます。
肥満と褥瘡
長い時間動かずに横になっていると、体の限られた部位に体の重みが集中して褥瘡が生じます。
体重が多い方ほど背中側の組織への圧力も高くなるため、褥瘡がより短い時間で広い範囲にできる危険性があります。
肥満と麻酔薬
脂肪組織への麻酔薬の拡散・蓄積は、お薬の必要量を増やし、排泄を遅らせます。少し目覚めに時間がかかることがあります。
手術前に
近年は麻酔や手術に備えて、リハビリテーションを行うことが推奨されています。
手術前から積極的に体を動かすことで、心肺機能の改善、筋力の向上を図り、手術中・手術後の合併症を減らそうという試みです。
また呼吸訓練なども併せて行うことにより、肺炎等もおこしにくくなることが知られています。診療科と協力の上で、手術に向けて計画的なケアを行っていきましょう。