よくある術前合併症

経口避妊薬の術前管理

経口避妊薬

経口避妊薬は、女性ホルモンである卵胞ホルモン(エストロゲン)と黄体ホルモン(プロゲステロン)が配合されたお薬です。 通常、女性ホルモンは卵巣から分泌され、それぞれエストロゲンは妊娠の準備、プロゲステロンは妊娠の維持といった役割を持っています。 経口避妊薬を服用すると、血液中の2つの女性ホルモンの濃度が妊娠に近い濃度まで上昇します。 すると、脳は「妊娠した」と錯覚し、脳からのホルモン分泌を停止し、排卵が抑えられることで避妊薬として働きます。

経口避妊薬と肺血栓塞栓症のリスク

肺血栓塞栓症とは肺の血管に血液のかたまり(血栓)が詰まってしまう病気で、呼吸困難、胸痛、場合によっては心停止を引きおこします。 いわゆる「エコノミークラス症候群」と呼ばれるもので、発症すると死亡に至る可能性が非常に高い危険な病気です。 肺血栓塞栓症の主な原因は、腹部や下肢の静脈にできた血栓(深部静脈血栓)が血流に乗って心臓を通過し、肺動脈に詰まることです。
手術を受ける期間をその前後を含めて「周術期」といいますが、周術期はさまざまな原因により深部静脈血栓ができやすくなります。 特に、下腹部の手術、股関節や膝関節の手術、長時間の手術などではリスクが高くなります。 そこで周術期には、下肢に弾性ストッキングを着用したり、機械でマッサージすることで、深部静脈血栓の発症を予防しています。
経口避妊薬を服用している患者さんは、周術期に深部静脈血栓がよりできやすくなることがわかっています。 どの程度リスクが高くなるかは十分にわかっていませんが、経口避妊薬との因果関係が否定できない死亡例が報告されています。

手術前には経口避妊薬の服用中断をお願いします

経口避妊薬は、周術期に深部静脈血栓を生じるリスクがあり、「手術前4週以内、手術後2週以内」の服用は避けるべきとされています。 入院後に服用を中断していないことがわかると、手術を延期せざるを得ないこともあります。 手術前の外来受診時には、現在飲まれているお薬(高血圧や糖尿病のお薬)と同じように、経口避妊薬を服用していることを医師、看護師、薬剤師に伝えてください。 医療従事者から「子宮内膜症の治療や避妊のために女性ホルモンが含まれたお薬を飲んでいますか?」とお尋ねすることもあります。 手術日が決まったら医師から服用中断の指示があります。