よくある術前合併症

貧血

血液中の赤血球の中には”ヘモグロビン”という、酸素分子と結合するタンパク質が含まれます。 貧血とは、血液中のヘモグロビンの量が少なくなった状態のことをいいます。
ヘモグロビンは体の組織に酸素を送り届ける働きをしているため、貧血になると体に十分な酸素が行きわたらず、息切れや動悸などさまざまな不調があらわれます。
WHOの貧血判定基準では、ヘモグロビン濃度が成人男性で13mg/dl以下、女性で12mg/dl以下と定義されています。

貧血の原因

貧血には鉄分の摂取不足、造血機能の低下、溶血(赤血球の破壊が亢進した状態)、出血などさまざまな原因があります。 高齢の方の場合、悪性腫瘍、感染症、膠原病、慢性腎不全、血液疾患など多岐にわたる疾患に伴って貧血となります。
また、妊娠中は、胎児へ鉄分を提供するため貧血になりやすいうえ、血液量が増加するために血液が薄まり、貧血になりやすくなります。

貧血と全身麻酔

貧血のある患者さんでは、全身麻酔・手術に伴う合併症や死亡の危険性が増えること、 輸血の可能性や輸血量が増えることにより輸血副作用の頻度が増えることなどがわかっています。
貧血の状態で手術を受ける場合、手術中の出血などによってさらに貧血が進行し、心臓や脳などの重要な臓器に十分な酸素が届けられず、 臓器不全におちいる危険性があります。そのため、手術前に輸血以外の方法で治療可能な場合は、鉄剤やビタミン剤の投与、食事療法などで貧血の改善を目指します。 それでも不十分な場合には、不足した血液成分を補充するために輸血療法を行います。
輸血には、
  • 自己血輸血:患者さんご自身の血液
    手術前に貯血しておく方法が一般的ですが、手術直前に血液を採取する方法(希釈式)や手術中に出血した血液を回収し戻す方法(回収式)があります。 手術の内容や患者さんの状態に応じて選択します。
  • 同種血輸血:献血の血液
    献血された血液を赤血球、血小板、血漿などの成分に分け、必要とする成分だけを輸血する方法などがあります。
    輸血を開始する基準は年齢や心疾患、肺疾患、虚血性脳疾患、腎障害の有無などに応じて異なり、一定ではありません。 輸血は医療上の利益は大きいものの、さまざまな副作用(アレルギー、感染症、拒絶反応など)もあるため、 原則としてそのリスクを上回る効果が期待される場合にのみ行います。