よくある術前合併症

深部静脈血栓症

深部静脈血栓症

太腿〜膝の裏側を走る深部静脈や、さらに体の中心に近い骨盤部に血液の塊(血栓)ができることを「深部静脈血栓症」といいます。 できた血栓が足の静脈から血流に乗って押し流され、心臓を通り抜けて肺の血管に詰まると、「肺塞栓症」という状態になります。 詰まった血栓が大きい、あるいはたくさんある場合、命にかかわることがあります。
よく聞く「エコノミークラス症候群(旅行者症候群)」も深部静脈血栓症と肺塞栓症を表しています。 飛行機や車などの狭い座席で足を動かせないまま長時間過ごした、あるいは震災の避難生活で狭い車中であまり動かずに寝泊まりしていた人が、 下肢の血行不良で血栓ができて足の腫れや痛みを引きおこしたり、肺の血管に詰まって胸痛や息切れをおこしたりするものです。 エコノミークラス症候群と同じようなことが、手術中や手術後にもおこる可能性があるとイメージしてください。

リスクと予防

深部静脈血栓症をおこしやすい状態として、がん、妊娠、低用量経口避妊薬の内服、血栓性素因(プロテインC異常症、プロテインS異常症、抗リン脂質抗体症候群など)があります。 しかしそれらがなくても、手術(特に整形外科手術)や長期臥床はリスク因子となります。 血縁者に血栓・塞栓の既往がある方も、血液が固まりやすい素因を持つ場合があります。
 全身麻酔の間は、自分で体を自由に動かすことはできません。全身麻酔でなくとも、手術中から手術後にかけて安静にしている間は、 足の静脈の血流が滞りやすくなります。このため血栓症の予防策として、手術中は弾性ストッキングやフットポンプ(間歇的空気圧迫装置)を装着して、 血液が淀まないようにしていきます。また手術後はできる限り早めの歩行再開や積極的な運動がすすめられます。

診断と治療

症状は下肢の疼痛や腫脹ですが、無症状の場合もあります。深部静脈血栓症が疑われた場合、またはリスクが高い場合は、血液検査(血中Dダイマー値)、 下肢静脈エコー、造影CTなどで診断します。
もし血栓が見つかった場合は、血栓を溶かす治療として、血液をサラサラにするお薬(抗凝固薬)の内服や注射を行います。 肺塞栓症のリスクが高い場合は、血栓の流入をせき止めるためのカテーテル(下大静脈フィルター)の留置が必要になることもあります。

過去に深部静脈血栓症を患ったことのある方や、下肢が腫れる、または痛むなどの深部静脈血栓症を疑う症状をお持ちの方は、ぜひ主治医へご相談ください。