よくある術前合併症

肝機能障害と全身麻酔

肝臓はどんな臓器?

肝臓は、腹部の右上、肋骨の下に収まっている臓器です。
働きとして、
  • 代謝・貯蔵・合成:肝臓は胃や腸で分解、吸収された栄養素を利用しやすい物質にして貯蔵し、 必要に応じてそれらを分解してエネルギーなどを作り出します。またアルブミンや血液凝固因子などのたんぱく質を合成する機能もあります。
  • 解毒作用:摂取した物質(アルコールやお薬など)や代謝の際に生じた体に有害な物質(アンモニアなど)を、毒性の低い物質に変え、 尿や胆汁中に排泄するという解毒作用があります。
  • 胆汁の生成・分泌:胆汁は、肝臓で分泌されている物質で、主に脂肪の乳化とタンパク質を分解しやすくする働きがあります。

肝機能障害

肝臓は、「沈黙の臓器」といわれ、知らぬ間に障害されていることがあります。アルコール性やウイルス性、自己免疫性や薬剤性、脂肪の蓄積(脂肪肝)など さまざまな原因で障害されます。これらの炎症により肝臓の細胞が破壊され、肝臓の機能がしだいに低下していきます。 肝臓は再生する臓器ですが、炎症を繰り返すと代償されない肝硬変という状態になります。その結果、胆汁の流れが悪くなることで皮膚が黄色くなったり(黄疸)、 お腹や足に水が溜まってむくんだり(腹水・浮腫)、アンモニアを解毒できないために意識がもうろうとする(肝性脳症)などさまざまな症状が出現します。 また病気が進行すると、腎臓や心臓、肺、脾臓などさまざまな臓器に影響し全身状態が悪化します。 そして、血液を止めるのに大事な働きをする凝固因子が合成されなかったり、脾臓での血液を止める働きをする血小板の破壊が亢進したりするため、 血液を止める機能が低下し、手術においては大きな問題となります。

肝機能障害の麻酔への影響は?

肝臓はとても大切な臓器のひとつであり、肝機能が障害された方への麻酔管理は特別な注意が必要です。 肝臓への血流や薬物代謝への影響を考慮して、麻酔薬を投与します。さまざまな薬物の代謝が悪くなり全身麻酔からの覚醒が遅れたり、 血液凝固因子や血小板の減少により出血が多くなったりします。止血機能が著しく障害されている場合は、 出血のリスクのある区域麻酔が実施できなかったり、血漿製剤などによる補正を要したりします。 また急性に肝機能が悪化している肝炎や肝硬変の重症度が非常に高い患者さんでは、手術のリスクが非常に高くなるため、 手術の実施判断はより慎重に検討する必要があります。
そのため、肝機能に異常があるといわれたことのある方は、必ず手術前に麻酔科医にご相談ください。